さて一方でアリコくんの事です(何事もなかったように始める)。
冬の北海道に憧れを見せるしぃちゃんに、「そんなのマゾだぜ」とちょっぴりどぎつい言葉使いで笑います。
多分、気持ちを開いた相手とはそんな感じの、スパイスのちょっと効いた喋りをします。
当たり障りなく終わりたい相手なら、「是非どうぞ、寒いけどいいところですよ」みたいな、普通に上手な扱いをします。
相手によって、アリコくんは態度がだいぶ変わるタイプと見ています。
変な意味じゃなく、心を開いた相手には安心して、自分のシニカルな面を出せるのかな、と思います。
多分「夏にしなよ」と人ごとみたいに言いながら、気持ちにはいつしか、故郷の緑に包まれてる彼女が浮かんできてたような気がします。
とっくに諦めた筈の、「生まれた街のあの白さ」を見せたかった人が今目の前で笑っています。
その笑顔は、打席に入るたび思い出してた13年前の笑顔と、同じだったのかな。
未練、とかではなさそうです。
ただ引っかかって引っかかって、自分でもそれが何だか分からないまま、長い間誰かに心開くわけでもなく黙々とやってきた感じです。
いつか彼女も、自分の知らない人と結婚するんだろうな、とは思ってたと思うんですよね。
だけどよりにもよってまさか、「あの(女遊びの激しい)菊田さん」にかっさらわれるとは想像もしなかったし、不幸にならないかどうか、ひたすら心配でもあった。
そんなとこに飛んできたのが、尾形くんの毒矢なんですよね…。
その毒矢は、彼の想いを解凍させることに成功しました。
多分恋らしい恋もしたことないまま、一人でこっちに来た。
孤独の自覚もないまま、孤立した。
店に来たのは偶然だったけど、お父さんはそんなアリコくんが可愛かったみたいです。
しぃちゃんとの相性も悪くなさそうだし、何か思うとこがあったのかもです。
お父さん、後悔してたのかもしれない。
今度ウチの杢太郎さんは、ソコに引っかかってるみたいです(汗)。
俺で、良かったのかと(汗)。
だけどここから先のことは、小説にはもう出てきていません。
お父さんの気持ちなら、確かめようもありません。
ただ杢太郎さんが切なそうだと、私も苦しいんですよね。
どうしてあげたら、いいのかな。
文章を書かねばならないような、そんな気もします。
極めて地味な話でしょうけど…。